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危険物施設の保有空地とは?基準・管理・設計の注意点
更新日 : 2025/04/24
危険物を取り扱う施設の設置や運営において、「保有空地」の確保は消防法で定められた重要な義務です。この保有空地は、万が一の火災発生時に延焼を防ぎ、消防隊が活動するためのスペースを確保するなど、施設の安全性を根幹から支える役割を担っています。
しかし、「どのくらいの幅が必要なのか?」「管理はどうすれば良いのか?」など、その基準や運用について悩まれる担当者様も少なくありません。
この記事では、消防法に基づく保有空地の定義から、具体的な基準(幅)、正しい管理方法、そして設計・施工上の注意点まで、専門的な知見を交えながら分かりやすく解説します。
Contents
危険物施設における「保有空地」とは?
まず、危険物施設における「保有空地」がどのようなものか、その定義と目的、対象となる施設を確認しましょう。
保有空地の定義と目的
消防法で定められる保有空地とは、危険物施設(製造所、貯蔵所、取扱所)の周囲に、延焼防止や消防活動のために確保することが義務付けられている一定の幅の空間を指します。
主な目的は以下の通りです。
- 延焼防止
施設で火災が発生した場合に、周囲の建物や工作物への延焼を防ぐ。また、周囲からの火災が施設へ燃え移るのを防ぐ。 - 消防活動スペースの確保
はしご車を使った消火活動や、避難経路に必要なスペースを確保する。 - 施設の維持管理
点検や補修作業に必要なスペースを確保する。
これらの目的を達成するため、保有空地には原則として何も置かないことが求められます。
危険物倉庫の意味や危険物の定義などについては、「危険物倉庫とは―3つの基準と建築の注意点を解説」をご覧ください。
保有空地の確保が必要な施設
消防法では、以下の区分に該当する危険物施設に対して、保有空地の確保を義務付けています。
製造所 | 危険物を製造する施設 |
貯蔵所 | 屋内貯蔵所 屋外タンク貯蔵所 屋内タンク貯蔵所 地下タンク貯蔵所 簡易タンク貯蔵所 移動タンク貯蔵所(常置場所において) 屋外貯蔵所 |
取扱所 | 給油取扱所(ガソリンスタンドなど) 販売取扱所 移送取扱所 一般取扱所 |
施設の詳細な区分や、保有空地の要否は個別の条件によって異なる場合があります。詳細は所轄の消防署にご確認ください。
保有空地の幅(距離)の基準
保有空地の基準は以下の表のように定められています。
この表にある「指定数量」とは、危険性や性質によって危険物の種類ごとに決められた基準の数量です。
指定数量はこちらにまとめられていますので参考にしてください。
この指定数量の何倍の量を保管するか、建物が耐火構造なのかどうかによって、必要な保有空地の広さが決まる仕組みになっています。
区分 | 空地の幅 | |
当該建築物の壁・柱・床が耐火構造である場合 | 左欄に掲げる以外の場合 | |
指定数量の倍数が 5以下の屋内貯蔵所 |
ー | 0.5m以上 |
指定数量の倍数が 5を超え10以下の屋内貯蔵所 |
1m以上 | 1.5m以上 |
指定数量の倍数が 10を超え20以下の屋内貯蔵所 |
2m以上 | 3m以上 |
指定数量の倍数が 20を超え50以下の屋内貯蔵所 |
3m以上 | 5m以上 |
指定数量の倍数が 50を超え200以下の屋内貯蔵所 |
5m以上 | 10m以上 |
指定数量の倍数が 200を超える屋内貯蔵所 |
10m以上 | 15m以上 |
緩和措置について
施設の壁、柱、床などが耐火構造である場合や、隣接する建築物との間に防火上有効な塀が設けられている場合など、一定の条件を満たすことで、保有空地の幅が緩和される場合があります。
ただし、これらの緩和措置の適用には専門的な判断が必要です。
保有空地の詳細設定や測定方法
保有空地の詳細な設定方法や測定方法については、危険物規制審査基準として公開している自治体もあります。
例えば、大阪市の基準では次のように定められています。
“建築物又は工作物の先端から測定すること。ただし、外壁から差出した軒又はひさしで、その水平距離が30センチメートル未満のものにあっては、当該外壁から測定することができる。”
(引用:消防局審査基準|大阪市)
このほか、名古屋市、四日市市、京都市など、自治体ごとにそれぞれ基準や測定方法が定められています。
保有空地の詳細や測定方法については、自治体によって細かい部分で多少の違いがある場合がありますので、自治体への確認が必要です。
保有空地と保安距離
保有空地と同じく、法律によって規制されている基準として「保安距離」があります。
危険物の貯蔵所について、「危険物の規制に関する政令」で位置・構造・設備についての基準が定められていて、位置に関する基準に盛り込まれているのが保安距離です。ここでは、危険物の貯蔵所は、この政令に掲げられた施設から一定以上の距離を確保していなければならないことが定められています。
この政令に掲げられた施設には、学校や病院、劇場のような大勢の人が集まる施設、重要文化財や史跡、高圧ガス貯蔵所や特別高圧架空電線など、二次災害につながる恐れのある施設が含まれます。
保安空地と保有距離の意味を完結にまとめると、次のようになります。
- 保有空地:危険物の貯蔵所で火災や爆発が起きた場合に火災拡大を防ぎ消火活動をしやすくするため、保有しておかなければならない空地
- 保安距離:危険物の貯蔵所で火災や爆発が起きた場合に保安を必要とする施設に影響を及ぼさないようにするため、確保しなければならない距離
危険物の貯蔵所は、この保安距離と保有空地のどちらの基準も満たしていなければなりません。
保有空地に関するよくある質問
保有空地とはどういう意味ですか?
火災が発生した場合に、周囲にある建物や木々などに火災が拡大しないようにすることを目的に定められた空地のことです。
保安距離と保有空地の違いは何ですか?
- 保安距離:危険物施設から周囲の建物への被害を防ぐための距離。
- 保有空地:消防活動を円滑にし、施設の延焼を防ぐための空間。
両者は目的と対象が異なり、保安距離は「周囲を守る距離」、保有空地は「消火活動と延焼防止の空間」です。
保有空地が必要な製造所は?
消防法において、保有空地が必要な製造所は、主に危険物を貯蔵・取り扱う以下の施設です。
- 製造所: 危険物を製造する施設
- 屋内貯蔵所: 危険物を屋内に貯蔵する施設
- 屋外貯蔵所: 危険物を屋外に貯蔵する施設
- 屋外タンク貯蔵所: 危険物を屋外タンクに貯蔵する施設
- 一般取扱所: 危険物を取扱う施設
- 屋外に設ける簡易タンク貯蔵所
これらの施設では、火災発生時に延焼を防ぎ、消防活動を円滑に行うために、施設の周囲に一定の空地(保有空地)を確保する必要があります。
危険物を取り扱う貯蔵所には保有空地が必須
危険物の貯蔵所について、法令で定められた保有空地の意味や基準、測定方法などをご紹介しました。
危険物の貯蔵所を建築する際には、万が一火災が発生した際に周辺の建物や木々に火災が拡大しないよう、周囲に空地を保有しておかなければなりません。この「保有空地」は、危険物を取り扱う貯蔵所に関して絶対に守らなければならない基準です。
その広さは、貯蔵する危険物の種類と数量によって決まります。また、空地の境界や測定方法の詳細については自治体ごとに定められているため、確認が必要となります。
もし保有空地の基準を満たしていない場合、その施設は危険物の貯蔵所として使うことはできません。そういった事態にならないためにも、危険物の貯蔵所として利用する予定の倉庫を建設する際には、実績のある業者に相談することが重要です。
三陽建設は倉庫の建設に豊富な実績を持ち、危険物倉庫について専門的な知識を有しています。そのため危険物を貯蔵するための倉庫建設についてお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
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