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HACCP(ハサップ)とは-義務化された新しい衛生管理手法の意味と導入手順を解説

更新日 : 2023/10/04
HACCP(ハサップ)とは-義務化された新しい衛生管理手法の意味と導入手順を解説

HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理の実施が、2021年6月から原則としてすべての食品の製造・加工、調理、販売などに携わる事業者に義務付けられました。すでにHACCPに基づく具体的な管理を行っている企業や事業者も多いかもしれませんが、HACCPの意味があいまいなまま管理方法が明確になっていない場合もあるのではないでしょうか。ここでは、HACCPの詳しい意味や実施手順、導入によってもたらされるメリットなどをご紹介します。HACCPを具体的に実施するための内容をまとめてあります。

新たな衛生管理の手法HACCP

HACCPは新たな衛生管理の手法として運用が開始されています。では、HACCPとはどのようなものなのでしょうか。概要や導入の背景などを見ていきましょう。

HACCP(ハサップ)とは

HACCP(ハサップ)という言葉は、以下の5つの単語から頭文字をとって作られたものです。

  • H=Hazard(危害)
  • A=Analysis(分析)
  • C=Critical(重要)
  • C=Control(管理)
  • P=Point(点)

これは、「危害を分析して把握し、重要な工程を管理して記録する」ことを意味していて、HACCPは食品の衛生管理の手法として国際的に用いられています。

HACCPは前半の2文字のHA、後半3文字のCCPに分けて考えると内容を理解しやすくなります。

  • HA(危険要因分析)
    有害な微生物や異物など食品衛生上で危害を発生させる要因となるものを予測して、管理方法を定める
  • CCP(重要管理点)
    食品に危害要因が発見された場合、それが健康を損なわない程度にまで減少・除去するために特に重要な工程を管理する

このようにHACCPは、工程を細分化してリスク管理を行い、危害要因が発見された場合の対処法も明確化しておくことで食品の安全を守り、管理する手法です。

従来の食品管理においては、包装工程と出荷工程の間で食品の抜き取り検査を行う断続的な監視によって行われるのが一般的でした。しかし、HACCPでは継続的な監視と記録を行うことで、問題特定と問題のある製品の出荷防止がより厳格になっています。

HACCP導入と食品衛生法改正の背景

なぜ管理手法を変更し、HACCPを導入する必要があったのでしょうか。

食品の安全性を確保するための法律である「食品衛生法」は、2003年に抜本的な改正がなされていましたが、それから15年が経過した2018年には大改正が行われ、HACCPが制度化されています。

15年の間に食を取り巻く環境は大きく変化し、食品の世界的な流通量も増えていました。こういった食のグローバル化に対応できる管理体制を構築するというのが、2018年の食品衛生法大改正におけるHACCP制度化の狙いのひとつだったのです。

また、当時から食中毒事故や異物混入、健康食品による被害など、食に関する問題が頻発していたという背景もありました。こういった問題の発生率は、その後かなり減少したものの、ある一定程度以下に下がらず改善が見られなくなっていたのです。

原則としてすべての食品等事業者に義務化

食品衛生法改正によって2020年6月1日からHACCP導入の義務化が始まりました。2021年6月1日からは、原則としてすべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理の導入が求められています。

この制度のなかで、大規模事業者、と畜場、食鳥処理場は「HACCPに基づく衛生管理」を、小規模な営業者等は「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」を、それぞれ行うこととされています。

厚生労働省ではこの取り組みについて衛生管理のための手引書を公開しています。

出典:HACCPに沿った衛生管理の制度化について|厚生労働省

HACCPの7原則12手順とは

HACCPは7つの原則に則った12の手順から構成されています。

このうち、手順の1〜5は原則1~7を進めるにあたっての準備として設定されています。

手順1(準備):HACCPチームの編成

製品に対して必要な知識を集めるため、各部門から人員を選抜しHACCP管理のためのチームを編成します。チーム内で解決できない問題が生じた際には、外部コンサルタントへの相談を検討するとよいでしょう。

手順2(準備):製品説明書の作成

製品の原材料やレシピ、賞味期限、販売方法などについてまとめた説明書を作成します。

内容が十分であれば様式は自由ですが、この説明書は製品の安全管理上の特徴を示すものとなります。

手順3(準備):意図する用途及び対象となる消費者の確認

製品が誰にどのようにして食べられるのかをまとめます。

具体的には、加熱の要否や、食べるために必要な準備・手順、対象となる消費者の特徴などを確認します。

手順4(準備):製造工程一覧図の作成

製品を製造するための一連の工程を図にします。

原材料の受け入れ、保管、投入、製造、加工、包装、出荷などすべての工程についてまとめます。それぞれの工程における温度管理や所要時間なども記載しておくと、さらに充実した工程一覧図となります。

手順5(準備):製造工程一覧図の現場確認

作成した工程一覧図と、実際の現場での人やモノの動きを照らし合わせます。工程一覧図と現場での動きに乖離があれば調整し、追加や削除が必要な項目があれば修正します。

ここまでの1~5の手順は、次からの手順6以降を進めるための準備段階です。以下の手順6からが7つの原則に則り進める具体的な管理手法となります。

手順6(原則1):危害要因分析の実施(ハザード)

製造工程ごとにどのような危害要因が潜んでいるのか、考えうる潜在的な危害要因を列挙します。

この危害要因には、各工程の各作業で発生するものや原材料に由来するものが含まれます。具体的には、有害な微生物や化学物質、硬質異物などを想定します。

手順7(原則2):重要管理点(CCP:Critical Control Point)の決定

手順6で列挙した危害要因のなかで、除去・低減すべき特に重要な工程を重要管理点として決定します。

加熱殺菌や冷却、金属探知などの工程が挙げられます。

手順8(原則3):管理基準(CL:Critical limit)の設定

手順7で決定した重要管理点を管理するための基準を具体的に決めていきます。加熱殺菌を行う時間や温度などを数値として明確化します。

この基準を達成しなければ安全を確保できないことを意味します。

手順9(原則4):モニタリング方法の設定

手順8で設定した管理基準が常に達成されているかを確認するためのモニタリング方法を決め、記録します。確認は適切な頻度で行われなければなりません。

手順10(原則5):改善措置の設定

モニタリングによって管理基準から逸脱している部分が発見された場合に、改善するための措置を設定しておきます。

手順11(原則6):検証方法の設定

ここまで定めたHACCPプランが正常かつ有効に機能しているかを検証する方法についても、設定しておきます。

検証は定期的に行い、見直しが必要であれば修正します。

手順12(原則7):記録と保存方法の設定

各工程における管理状況の記録のつけ方と保存方法をあらかじめ決めておきます。

この記録はHACCPを実施した証拠となると同時に、問題発生時には管理状況をさかのぼって原因追求を行うための資料となります。

HACCP導入でもたらされるメリット

このように、HACCPでは食品の製造に関して安全を確保・維持するための具体的な管理手法が定められています。HACCPを導入することで、企業にとってはどのようなメリットが生まれるのでしょうか。

平成26年12月、厚生労働省では「HACCPの普及・導入支援のための実態調査」(PDF)を実施しました。このなかでは、HACCPの導入効果として次のような調査結果が発表されています。

生産効率の向上

HACCPを導入し管理手法を実施すると、実際の作業量は増え生産効率は下がると考えられてしまうかもしれません。

しかし、実際には、生産効率が向上したとの回答が一定数あります。

この理由として、従来の管理に対し、管理手法について明確なルールと手法を設定することで、管理の作業を実施する効率が向上するといったことが考えられます。

また、管理の徹底により品質が安定し、不良率や返品発生率が低減します。これにより中長期で見た生産効率は向上したと実感している企業があると考えられるでしょう。

取引の増大

HACCPを導入し実施していることを明示していることで、取引相手は安心して取引できます。

また、国際標準でもあるHACCP実施は、海外企業との取引においても安心して取引できる相手であることを証明するものになります。

厚生労働省の調査ではHACCPを求める事業者との取引が増えたとの回答が一定数あり、HACCP導入がビジネスチャンスとなることを示しています。

ロス率の低下

HACCPでは原材料の受け入れ段階から管理手順を定め、危害要因を除去・低減するための方法を設定します。また、製造工程においても管理が徹底されることで、ロス率の低下につなげることが可能です。

クレームや事故発生数の減少

クレームや事故の発生は、食品事業者にとって影響が大きく重要な課題です。

HACCPを実施することで、異物の混入や汚染などの危害要因を排除する対策を立てられます。これにより、クレームや事故の発生が抑えられます。

不具合発生時の対応の迅速化

HACCPでは危害要因を分析し、対策を具体化します。これにより、不具合が発生した場合にも手順に則った迅速な対応が可能になります。

不具合が発生した際に対処した記録をもとに、原因を究明しルールを改善することで、発生の防止、対策の強化へとつなげます。このように管理手法をアップデートしていくことで、衛生管理のレベルもさらに向上します。

衛生管理徹底の根拠明確化

HACCPの7つの原則と12の手順を進めることで、どのような方法によって衛生管理を行っているのか、その基準にどのような重要性があるのかを具体的に理解できます。

これにより、社外に対しても衛生管理についての自社の取り組みを明確な根拠を持って説明できるようになります。

国際基準のHACCPに沿った衛生管理を遵守していることで、取引先の信頼や評価につながり、大きな宣伝材料とすることもできます。

社員の衛生管理意識が向上

社内でHACCP導入の手順を進めることで、社員の衛生管理に対する意識も向上します。

それぞれの工程においてなぜその管理が必要なのか、どのような原因によって不具合が発生するのかを理解するきっかけにもなります。

HACCPがあることで管理手法が明確化しているため、衛生管理についての教育も行いやすくなります。

HACCPは食品衛生管理のスタンダード

食品衛生法の改正に伴い導入が義務化されたHACCPについて、概要や実施手順、導入によって生まれるメリットなどをご紹介しました。

HACCPは、継続的な衛生管理によって食の安全を大きく高める効果が期待できます。また、国際的な取引においてもHACCPを実施しているかどうかで取引の可否が分かれる可能性があります。HACCPはすでにスタンダードとなっており、導入と実施は食品衛生管理の前提となっています。今後は、HACCPの意味と効果について理解を深め、自社の実施プランをより具体的なものへとアップデートすることでさらなる効果が期待できます。

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