コラム

column

工場

工場の騒音対策とは?防音に効果的な方法と騒音の基準・法令を解説

更新日 : 2023/12/05
工場の騒音対策とは?防音に効果的な方法と騒音の基準・法令を解説

工場にとって騒音対策は避けて通ることのできない課題です。機械を使用して作業する際は必ずといっていいほど音が発生しますが、音が大きすぎる場合は騒音となり、基準を超えていれば法令にも違反することになります。騒音の基準はどのように定められているのでしょうか。工場の騒音についての基準や関係する法令、騒音発生を防ぐための方法、騒音についての苦情を受けた場合の対処法などを紹介します。

工場の騒音に関する規制や法律

工場から発生する騒音が近隣や周辺環境に与える影響については、騒音規制法と環境基本法で規制されており、基準が定められています。

これらふたつの法律の騒音に関する内容を見ていきましょう。

騒音規制法の概要

騒音規制法は、騒音による健康被害の防止や、生活環境の保全を目的として定められた法律です。このなかでは、工場や建設現場、交通などから発生する騒音について、適切な対策を講じることを義務付けています。

また、工場などで発生する騒音を規制するために、昼間、夜間などの時間帯や地域の種類に応じた区域に分けて基準を設けています。

騒音規制法における4区域

騒音規制法では区域を次のように分けています。

  • 第1種区域
    良好な住居の環境を保全するため、特に静穏に保つ必要がある区域
  • 第2種区域
    住宅地であることから、静穏の保持を必要とする区域
  • 第3種区域
    住宅地と商業地・工業地がともにある区域で、住民の生活環境を保全するために騒音発生防止が必要な区域
  • 第4種区域
    主に工業地で、区域内の住民の生活環境を悪化させないために著しい騒音の発生防止が必要な区域

これら4区域について、時間帯別の騒音基準があります。

区域と時間帯別の騒音基準

4区域には朝・昼間・夕・夜間でそれぞれ騒音の基準が設けられており、以下の表にある基準の範囲内で、都道府県知事または市長が規制基準を定めることとなっています。

時間の区分/区域の区分朝午前5時または6時から
午前7時または8時まで
昼間午前7時または8時から
午後6時、7時または8時まで
夕午後6時、7時または8時から
午後9時、10時または11時まで
夜間午後9時、10時または11時から
翌日の午前5時または6時まで
第1種区域40db~45db以下45db~50db以下40db~45db以下40db~45db以下
第2種区域45db~50db以下50db~60db以下45db~50db以下40db~50db以下
第3種区域55db~65db以下60db~65db以下55db~65db以下50db~55db以下
第4種区域60db~70db以下65db~70db以下60db~70db以下55db~65db以下

(db:デシベル)

ただし、第2・3・4種区域内において以下の施設の敷地周囲おおむね50メートルの区域内では、都道府県知事(市の区域内の区域については、市長)が、上記基準からさらに5デシベル減じた規制基準にすることができるとされています。

  • 学校
  • 保育所
  • 病院
  • 診療所(患者を⼊院させるための施設を有するもの)
  • 図書館
  • 特別養護⽼⼈ホーム
  • 幼保連携型認定こども園

騒音規制法に違反した場合の処置

市町村は、騒音の基準に適合していない疑いがある工場や建設現場などに対して、作業状況や必要事項の報告を求めたり、立ち入り検査をしたりする権利を持ちます。

また、期限を定めて改善勧告や改善命令を行うこともできます。

これらの処置がなされたうえで、それでも改善されず騒音が続く場合には、罰則が適用されることになり、1年以下の懲役または10万円以下の罰金に処せられます。

そのほか、市町村への報告や立ち入り検査の拒否、虚偽の報告をした場合などについても、罰則が定められています。

環境基本法での環境基準

騒音規制法のほかに、周辺環境に対する騒音の影響について基準を定めているのが、環境基本法の環境基準です。

環境基本法は日本の環境保全について基本事項を定めた法律で、公害対策基本法を発展的に継承して制定されています。そのため、都市環境における公害防止のための計画や基準も盛り込まれています。

環境基本法では、目標とする基準として以下の基準値を設けています。

地域の類型昼間
午前6時~午後10時
夜間
午後10時~翌日の午前6時
AA特に静穏を要する地域
(療養施設、社会福祉施設などが多い地域)
50db以下40db以下
A
もっぱら住居を設けるために利用される地域
55db以下45db以下
B
主に住居を設けるために利用される地域
55db以下45db以下
C
住居が多く商業、工業等の施設もある地域
60db以下50db以下

(db:デシベル)

ただし、A、Bの地域で2車線以上の道路に面する地域では、上記より高い基準値が設定されています。C地域のうち車線を有する道路に面する地域についても同様です。

工場が行うべき騒音対策

工場を操業する際には、騒音規制法や環境基本法で定める騒音の基準を守らなければなりません。

また、工場の外に対する騒音だけでなく、工場の内部で働く人に対しての騒音についても考慮する必要があります。

次のような点に気をつけることで、騒音の対策が可能です。

騒音障害防止のためのガイドラインの確認

「騒音障害防止のためのガイドライン」(PDF)は、作業者が騒音障害になることを防ぐため、1992年に厚生労働省が策定したガイドラインです。

同ガイドラインには、自社工場で働く従業員の健康を守るために、工場を経営する事業者が行うべき措置についてまとめられています。

具体的には、作業場所での騒音の測定方法や基準値、作業者に健康診断を受けさせること、労働衛生教育の内容などが定められています。

騒音の測定結果や評価結果、健康診断結果などの保存期間についての規定もあります。

騒音の測定と現状把握

騒音の対策をとる前に、実際に工場からどれくらいの騒音が出ているかを正確に測定することが重要です。

現状をしっかりと把握することで、どのような対策が必要なのか進むべき方向性も決めやすくなります。

可能であれば、周波数の分布や音域ごとの大きさも測定するとよいでしょう。人が不快に感じる音域の騒音が大きければ、騒音の大きさが法令で定められた基準値以下でも苦情につながる可能性があります。人が日常生活において敏感に感じる音域は中音域といわれており、800Hz~2,000Hz付近の音が該当します。
特にこの音域に注意して防音対策を行うと効果的です。また、音域を特定することは、どの機械や作業から騒音が発生しているかを判別するヒントになるため、どこを優先的に対策すべきか明確になります。

騒音の発生源の特定と改善

騒音レベルを把握したら、次に騒音の発生源となっている機械や作業の特定を優先します。

ひとつの機械や作業から出る音が小さくても、壁や天井などへの共振によって騒音になる場合や、複数の機械を同時に使用したときにだけ響く場合もあります。また、管理職が見ていないときに行っている作業でのみ大きな音が出ているといったケースも考えられます。

経営層と現場サイドが協力し、場合によっては騒音測定を行う業者も利用することで原因特定に取り組みましょう。

原因の特定をしたら、機械の音をなるべく小さくできるよう部品交換や給油をする、作業の方法を見直すといった改善策を検討します。使用している工具の音が大きい場合には、低音仕様のものへと変更するのも効果的です。

機械から床面への振動によって地響きのような騒音が発生している場合には、防振対策を施し床への振動を遮断する方法を考えましょう。

機械の下への防振ゴム設置、アンカーボルトによる固定などによって振動を抑えることができます。また、防振床や浮床工法を採用するなどして、工場の構造そのものによって振動を抑える、または伝えないようにする方法もあります。

防音材による遮音・吸音

できる限り機械や作業からの音を小さくする努力をしても、工場を操業する限り、少なからず音が発生することは避けられません。

そこで、発生する音をいかにして外に出さないようにするかを考えます。防音材を用いて遮音、または吸音することを検討しましょう。

遮音性が高い素材としては、コンクリートや石膏ボード、鉄板などがあります。スレート壁も遮音性が高く、工場の壁材として従来から使われています。

このほか、多孔質吸音材や有孔ボードなど、音響施設で使われるような素材は高い吸音性があります。作業をするうえで耐火性や耐水性において問題がなければ、騒音が工場の外にもれるのを防ぐ有効な対策となります。

遮音材

遮音材とは、空気中を伝わる音波を遮断する材料です。音波は、空気や固体を伝わっていきます。遮音材は、空気中を伝わる音波を遮断することで、音の伝播を妨げます。

遮音材の例
・コンクリート
・石膏ボード
・鉄板
・スレート

質量が重く、密度が高いほど遮音の効果が高くなります。

吸音材

吸音材は、空気中を伝わる音波の振動を吸収することで、外部への音の通りを防ぎ、音の反響を抑える効果があります。

吸音材の例
・多孔質吸音材
・有孔ボード
・共鳴吸音材

これらは音響施設で使用されることが多く、高い吸音性があります。工場の作業における耐火性や耐水性に問題がなければ、騒音が工場の外にもれるのを防ぐ有孔な対策となります。

騒音クレームが発生した場合の対処法

2023年5月に環境省が公表した「令和3年度騒音規制法等施行状況調査」の結果によると、2021年度における騒音にかかる苦情件数は全国で19,700件と報告されています。

そのうち工場や事業場からの騒音は5,473 件で、全体の27.8%にのぼります。

当然、法令上の騒音基準は守らなければなりませんが、基準値内でも苦情が出る可能性はあり、訴訟に発展するおそれもあるため迅速な対策が必要です。

実際に騒音についてのクレームを受けた際には、次のようなことを心がけましょう。

騒音についての報告・検査への積極的な協力

騒音のクレームが自治体へと寄せられた場合、自治体による立ち入り検査の実施や、報告書の提出要請といった措置がとられます。

このとき、報告や検査の要請に積極的に協力しなければ、検査の日数が延びることも考えられます。検査が終わるまで工場が通常稼働することは難しく、検査が長引けばさまざまな面で不利益となります。

そのため報告や検査の要請には積極的に協力しましょう。

騒音発生源の見直しと改善

工場から発生する騒音が定められた基準の範囲内だったとしても、クレームをそのまま受け流しているだけでは後々さらに大きなトラブルとなるおそれもあります。

クレームを受けた場合には原因の調査を行い、騒音の発生源となっている部分について見直しと改善を実施しましょう。

騒音の対策を進めることは近隣への配慮としても必要ですが、従業員の健康を守ることにもつながります。また、機械の不調を改善し故障を防ぐことにもつながるため、前向きに受け止めて対策に取り組みましょう。

誠意ある迅速な対応

クレームを受けた場合に対応しなければ、地域住民からの理解を得られないばかりか、企業としての信頼を失うことにもつながりかねません。その結果、取引に影響が出たり、裁判へと発展したりといったこともありえます。

企業として誠意ある迅速な対応をとることが重要です。実際に騒音が基準を超えていたとしても、初期の対応次第で解決までの道のりが大きく変わります。

近隣の住民から理解が得られるよう、説明会を実施する、どのような防音対策を講じているかを報告するなど、具体的で細やかな対応を心がけましょう。

工場の騒音対策は建物の構造から

騒音に関する法律と基準、工場がとるべき騒音対策などについて紹介しました。

多くの工場では機械が稼働し、そこから騒音が発生します。いくら機械の振動を抑えたり、音を抑える作業方法を工夫したりしても、完全に無音で作業するのは実質的に難しいでしょう。しかし、工場を建設、運営していく際は、企業としての信用を守り、近隣との良好な関係を維持するためにも、騒音を発生させない工夫が必要です。「工場は音が出て当然」と考えずに、音をできるだけ小さくする工夫に取り組みましょう。

三陽建設は、工場の建設に豊富な実績を持ち、騒音を防止する仕組みを取り入れた工場建設にも多くのノウハウがあります。新たに工場を建設、または既存の工場の改築を検討している場合は、お気軽にご相談ください。

工場の改修・リニューアルをご検討の方は「三陽建設のリニューアル・リノベーション」をご覧ください。

創業100年を越える実績と信頼

高度な技術と幅広い対応力で様々なご要望にお応えします。

三陽建設の強みはこちら