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工場・倉庫の耐震基準とは?耐震診断や耐震性を向上させる方法

更新日 : 2023/12/05
工場・倉庫の耐震基準とは?耐震診断や耐震性を向上させる方法

日本は昔から地震大国と言われてきましたが、近年は全国各地で大規模な地震が起きています。工場や倉庫など大規模な建築物においても、有事の際に従業員の安全を守り、業務への影響を極力抑えるためにも設備の耐震性を担保することは必須と言えるでしょう。

この記事では、耐震性を調査すべき対象となる建物の基準や、耐震診断の実施方法、耐震性を向上させるにはどのような方法があるかについて解説します。

自社の工場・倉庫の耐震性に不安のある方、具体的に耐震性を高める方法を検討している方はぜひご一読ください。

工場・倉庫に定められた耐震基準

工場・倉庫を対象に特別に定められた耐震基準といったものはありません。建築基準法に準拠した全ての建築物に共通の耐震基準が適用されます。耐震基準には現在の建築物に対して適用される「新耐震基準」と1981(昭和56)年5月31日までに建築確認を受けた建築物に対して適用されていた「旧耐震基準」の2つが存在します。基準はそれぞれ以下の通りです。

  • 旧耐震基準:震度5強レベルの揺れでも建物が倒壊せず、仮に建物が破損したとしても、補修する事で生活が可能となる構造基準
  • 新耐震基準:震度6強レベル~震度7レベルの揺れでも、建物が倒壊しないような構造基準

つまり、工場や倉庫が1981(昭和56)年5月31日までに建築確認を受けたものの場合、旧耐震基準で建築されており、新耐震基準を満たしていない可能性があります。

現在、日本では震度6以上の地震は全国各地で起きており、旧耐震基準を最低限満たす水準の建築物は大きな地震で損壊・倒壊しないとは限りません。必要に応じて補強などの対応が求められます。

耐震診断が求められる工場・倉庫

建築物が新耐震基準を満たしているか調査する方法として「耐震診断」が挙げられます。耐震診断は旧耐震基準で建てられたすべての建物に義務付けられているわけではありませんが、工場や倉庫においては特定の条件を満たす場合は耐震診断が求められます。必要となる3つのケースについて見ていきましょう。

特定既存耐震不適格建築物指示対象となる特定既存耐震不適格建築物耐震診断義務付け対象建築物
一般的な工場階数 3 以上かつ 1,000 ㎡以上該当なし該当なし
危険物を貯蔵もしくは処理する工場全てが対象500㎡以上階数1以上かつ5,000㎡以上(敷地境界線から一定距離以内に存する建築物に限る)

参考:義務化される「耐震診断」について|一般財団法人日本耐震診断協会

特定既存耐震不適格建築物の要件

特定既存耐震不適格建築物とは、旧耐震基準に準拠して建てられた建築物の中でも特定の条件に当てはまるものを指します。

工場に当てはまる条件としては「階数 3 以上かつ 1,000 ㎡以上」の規模があるか、もしくは「政令で定める数量以上の危険物を貯蔵⼜は処理する」設備のいずれかの場合です。

指示対象となる特定既存耐震不適格建築物の要件

指示対象となる特定既存耐震不適格建築物の要件とは、特定既存耐震不適格建築物の内、必要な耐震改修について行政が指示を出し、従わない際はその旨が公表される対象となる建築物を指します。

一般的な工場であれば、この条件に該当することはありませんが、危険物を貯蔵もしくは処理する工場の場合、500㎡以上の面積を有することで対象とされます。

耐震診断義務付け対象建築物の要件

耐震診断義務付け対象建築物とは、耐震診断が義務付けられている建築物を指します。一般的な工場であれば、この条件に該当することはありません。

危険物を貯蔵もしくは処理する工場で、階数1以上かつ5,000㎡以上(敷地境界線から一定距離以内に存する建築物に限る)の条件を満たすものが対象とされます。

耐震診断の実施の流れや費用感

耐震診断を実施する場合、実際の流れや費用の目安を解説します。

耐震診断の実施の流れ

耐震診断は大きく分けて「予備調査」と「本調査」が実施されます。まず業者に診断を依頼すると予備調査が実施されます。具体的には図面や各種書面の有無、図面での確認やヒヤリング調査などを通じて、診断の必要性や、必要な場合の予算・期間・調査方法などが検討されます。

予備調査の結果を踏まえて本調査を実施する場合、実際に現地調査を行い耐震診断を実施します。耐震診断の方法には「1次診断」「2次診断」「3次診断」の3つの方法があり、数字が大きくなるごとに詳細で精度の高い診断を行います。その分費用が高くなるため、必要に応じた方法での調査を依頼しましょう。

診断の結果、耐震補強が必要であると判断された場合は改めて改修工事について検討します。

工場・倉庫の耐震診断の費用の目安

耐震診断の費用の目安は以下の通りです。

  • RC造(鉄筋コンクリート):約1,000円/㎡~約2,500 円/㎡
  • S造(鉄骨造):約1,000円/㎡~約3,000 円/㎡

一般的には面積が小さくなると㎡あたりの単価は割高になります。また、建物の意匠図や構造図が存在しない場合、調査項目が多くなるため、目安以上の費用がかかる可能性があるためご注意ください。

工場・倉庫の耐震性を向上させる方法4選

工場・倉庫の耐震性を向上させたい場合、選択肢は複数挙げられます。予算や構造上の可否などから検討し、いくつかの方法を組み合わせることも含めて最適な方法をご検討ください。

一般的に多く取られる対策方法について4つ解説します。

壁を増やす(鉄筋コンクリート造)

コンクリートの壁を増やすことで、建物の構造を強化できるため耐震性が向上します。比較的安価・短工期で実施可能な対策である点も魅力的といえるでしょう。

ただし、壁を増やすことによって動線が悪くなり、業務効率が低下するといった懸念点も挙げられます。業務に影響が出ない位置に壁を増設できる構造であれば検討に値する選択と言えるでしょう。

既存の柱を補強する(鉄筋コンクリート造)

既存の柱を補強することで、既存の構造を大きく変えることなく耐震性を高めることが可能です。具体的には柱に鋼板を巻くなどの方法で、柱1本1本の強度を高めます。柱の強度は建物の強度に直結するため、大きな地震でも倒壊しにくくする対策が可能です。

ブレースを増やす(鉄骨造)

鉄骨造の建築物の場合、鉄骨ブレースを増やすことが有効です。ブレースを増やすことにより、水平方向からの力に強くなるため、大きな地震の横揺れに際しても建物の変形や倒壊を防ぎます。

免震・制震構造にする

免震構造もしくは制震構造にすることにより地震が起きた際、建物への揺れの影響を軽減することができます。

  • 免震構造:地盤と建物を切り離し、間に免震装置を設置した構造。揺れがそもそも建物に伝わりにくくなる。
  • 制震構造:建物の下部に制震装置を設置した構造。揺れは建物に直接伝わるが、制震装置が揺れを吸収するため、建物が受ける影響は少ない。

厳密には建物そのものの耐震性を高める方法ではありませんが、これらの方法を取ることにより、地震からの倒壊に強い建物にすることができます。

制震構造より免震構造の方がさらに安全性が高いですが、地盤に対して手を加えるため費用は高く、工期も長くなります。

工場・倉庫での地震対策については「工場・倉庫での地震対策で実施したい7つのポイント」をご覧ください。

工場・倉庫の耐震に関するよくある質問

耐震診断にかかる費用はどれくらいですか?

鉄筋コンクリート造の耐震診断の費用の目安は概ね1,000円~2,500 円/㎡です。

建物形状や一般図・構造図・検査済証の有無等により現地調査の内容及びそれに伴う費用が変わってきます。

参考:耐震診断料金(費用)の目安|一般財団法人日本耐震診断協会

耐震診断は工場・倉庫の図面がなくても可能ですか?

工場や倉庫の耐震診断は、原則として図面がないと対応できません。きちんと保存された図面がない場合でも耐震診断は実施可能ですが、耐震性能を評価する際に現在の工場の形状や状況を正確に把握することが必要になります。正

まとめ

工場・倉庫の耐震について重要な論点をまとめました。旧耐震基準で建てられた工場・倉庫は特定の条件を満たす場合は耐震診断が強く求められます。そうでない場合であっても安全性や事業の継続性の観点から、耐震性の調査や必要に応じた改修工事を実施することが望ましいと言えるでしょう。

今回解説した内容を参考に、自社にあった調査や対策を実施してみてください。

三陽建設では、工場・倉庫の耐震補強工事の実績が多数あります。工場・倉庫の稼働を止めずに工事を実施する「居ながら改修」の実施もしていますので、耐震補強工事をご検討の際にはお気軽にご相談ください。

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