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食品工場のゾーニングと動線計画のポイント
更新日 : 2024/04/16食品工場は消費者の体内に入る食品を製造するため、その衛生管理には極めて高いレベルが求められます。工場内では徹底した環境管理が欠かせません。
一方で、工場が営利団体である以上、衛生環境を担保した上で効率的な設計を行い、生産性を高める必要もあります。
両者を両立させ、適切かつ効率的に食品工場を経営するために欠かせないのが「ゾーニング」と「動線計画」の考え方です。
本記事ではゾーニングと動線計画について、重要な論点を中心にを解説しながら食品工場の内部設計の重要なポイントを解説します。
これから食品工場の経営を考えられている場合や、衛生管理と生産性向上の両立に課題をお持ちの方はぜひご覧ください。
Contents
食品工場におけるゾーニングと動線計画
「ゾーニング」は「区別する、区画する」といった意味。食品工場におけるゾーニングとは工場内を異なる機能や衛生レベルに応じて区分けすることです。これらの区域を明確にすることで、製品の交差汚染を防ぎ、衛生管理を強化できます。
具体的には、人の動きの管理、物流の管理に加えて、空気の流れも制御するによって、衛生レベルの低いエリアから高いエリアへ汚染元が移動することを防ぐことが、食品工場の稼働においては欠かせません。
動線計画は人・物の動きを結んだ線、すなわち「動線」を設計することにより、合理的な運営体制を整えることを指します。
工場の経営においては、生産ラインを中心に人や物の流れを円滑にし、効率的に生産活動を実施することが欠かせません。いかに適切な動線計画を組むかが工場の生産性、ひいては経営そのものを左右することになるのです。
食品工場の稼働においては、適切なゾーニングを実施できることを大前提としつつ、経営効率も考えた動線計画を考える必要があります。
ゾーニングにおけるエリアの区分
食品工場にの内部におけるゾーニングは汚染区分に応じた4つの区域、すなわち「汚染区域」「準汚染区域」「準清潔区域」「清潔区域」および、準清潔区域・清潔区域に入る準備を行うサニテーション(衛生準備室)に区分されます。
それぞれの区分について、具体的にどういった機能を持つ場所であるのか、求められる清潔レベルなどについて解説します。
汚染区域
汚染区域は食品工場において最も汚染レベルが高い区域を指します。工場は物品の搬入や人の出入りなど、外部(一般区域)との接触を完全に断つことはできません。そのため、どうしても相対的に交差汚染が考えられるエリアが存在してしまいますが、それが「汚染区域」に区分されます。
具体的には原料や包材が搬入されてくる入荷室や、梱包し終わった製品を出荷するための出荷室が該当します。
汚染レベルとしては落下細菌数100個以下が目安です。
準汚染区域
準汚染区域は、汚染区域と準清潔区域の中間に位置します。工場内における位置づけとしては材料のさらなる加工や準備がもしくは原材料や製品の貯蔵・保管が行われる場所です。
準汚染区域は汚染区域と比較して高い衛生レベルが求められる一方で、区域の汚染リスクは相対的に高く、準清潔区域および清潔区域にその汚染を持ち込まないよう、留める役割を持ちます。
なお、区分の仕方によっては「汚染区域」「準汚染区域」を明確に区別せず「汚染区域」でまとめ、準清潔区域・清潔区域と明確に区分する場合もあるためご注意ください。
サニテーション(衛生準備室)
サニテーション(衛生準備室)は、作業員が作業前に手洗いや消毒を行い、必要な場合には保護服を着用するための場所です。このエリアは、特に従業員が準清潔区域・清潔区域に入る前に重要な役割を果たします。
汚染区域・準汚染区域における汚染を高い衛生レベルが求められる区域に持ち込まないよう、汚染の原因を徹底的に排除する位置づけです。
準清潔区域
準清潔区域は、食品を実際に加工する工程が実施される区域です。この区域における汚染は製品への異物混入につながり、重大なインシデントを引き起こすリスクがあります。
そのため、非常に高い衛生レベル(具体的には落下細菌数50個以下が目安)が要求されます。
汚染区域・準汚染区域からの直接の進入は避けなければならず、サニテーションでの汚染の除去が必須です。
清潔区域
清潔区域は、最終製品が包装される場所であり、最も高い衛生レベルが求められるエリアです。目安としては落下細菌数30個以下・真菌数10個以下が要求されます。
工場内でも最も高い衛生レベルが求められ、空気の管理も含めた徹底した設備対策が必須です。
エリアの区分の方法
食品工場におけるゾーニングは、製品の安全性と品質を保つ上で不可欠な要素です。区分けは、物理的な障壁や空間の設計を通じて、エリアを区分することで実現されます。
エリアを区分する具体的な方法について、代表的な手法、すなわちライン、パーテーション、ビニールカーテン、ドア・障壁について、それぞれのメリット・デメリットも踏まえて解説します。
ライン
ラインによるゾーニングとは、床や壁に印をつけてエリアを区分けする方法です。色分けやテープ、塗料を使用して、明確にエリアを示します。
視認性を高めることより「エリアの区分が異なる」ことが明確に意識しやすくなるため、ラインを不用意に通りこさないよう、促すことができます。
物理的な障壁などを設置する必要がないため、低予算・短期間で実施することができ、撤去や変更も容易です。
一方で、物理的な障壁がないため、当然ながら空気や汚染物質の流れを遮断することはできません。汚染区域と準汚染区域の区分のような、高い衛生管理レベルを求められない区分において有効な方法といえるでしょう。
工場の床塗装やラインによるゾーニングについては「工場の床を塗装することで生まれるメリットとは?塗装を行う必要性や注意点を解説」でもご紹介しています。
パーテーション
パーテーションは、簡易な間仕切りを設置してエリアを分ける方法です。可動式や固定式の壁が含まれます。
比較的簡易、かつ低予算で設置・移動・撤去ができ、ひとつの作業工程の中での簡易空間の区分に適しています。
ただし、空気の流れや汚染物質の拡散には一定レベルの効果しかないため、厳格な区分が必要な場面には適しません。
ビニールカーテン
ビニールカーテンは、軽量で取り付けやすい柔軟な障壁を設置することで区分を分ける方法です。基本的に低予算、短工期で設置でき、軽量であるため作業の生産性にも大きく影響しにくい点もメリットといえるでしょう。透明度の高い素材を用いることによりエリア間の視認性が確保できるのもメリットです。
総合的に優れた手法ですが、空気の流れを完全に遮断できるわけではないため、非常に高い衛生レベルを求められる区域での仕切りとしては不十分です。
また、比較的耐久性が低く、一定の頻度で交換が求められることもデメリットとして挙げられます。
ビニールカーテンを使用するメリットについては「工場の間仕切りにビニールカーテンを使用するメリットと最適な設置方法」をご参考ください。
ドア・障壁
ドアや障壁は、エリア間を完全に物理的に分離する方法です。自動ドアやエアロックシステムを含むこともあります。
エリア間の汚染物質の移動を効果的に防げる点、耐久性が高く、長期間にわたって安全性を確保できる点がメリットです。
一方で設置やメンテナンスに費用がかかり、工場の改修・レイアウト変更に柔軟に対応しにくい点がデメリットとして挙げられます。
工場のゾーニングにおける注意点
工場におけるゾーニングは、製品の安全性と品質を維持するための基本的な要素です。各区分に求められる必要十分な対策を実施するための注意点について解説します。
区分に応じた適切な対応を取る
食品工場におけるゾーニングは、製品の安全性と品質を確保するために不可欠です。各ゾーンは特定の目的と機能を持っており、それぞれに応じた適切な対応が必要です。
例えば、清潔区域では最も高い衛生レベルが求められるため、他エリアと明確に遮断する必要があります。空気環境の調整だけでなく、内装の建材も含めて高い水準での環境の維持が求められます。
一方で、外部と汚染区域の間、汚染区域と準汚染区域の間などにおいては必要なレベルにおいて業務効率や予算との兼ね合いから
サニタリー区域での衛生管理を徹底する
サニタリー区域での衛生管理が工場内での衛生管理の徹底を左右すると言っても過言ではありません。
サニタリー区域には汚染区域もしくは準汚染区域からの人の出入りがあるため、完全に汚染物質を持ち込まないことは現実的ではない一方、その汚染を準清潔区域、清潔区域に持ち込まないよう、除去しなければなりません。
そのため、サニタリー区域での汚染除去の徹底、高い衛生レベルを求められるエリアとの空間的な区分には特に慎重な対応が求められるのです。
まとめ
食品工場に求められるゾーニングについて解説しました。食品工場では最終的に顧客の体内に入るものが生産されるため、その衛生管理は他の工場と比較しても高い水準が要求されます。
そのため、製造工程において段階ごとに求められる衛生レベルが設定されており、その協会を区分するゾーニングが不可欠です。
今回解説した区分エリアを明確に意識し、各区分で求められる十分な衛生レベルを確保できることを前提としたうえで、効率的・経済的な工場の動線計画を立ててみてください。
三陽建設では、食品工場の建設・改修に関して豊富な施工実績があります。ゾーニング・動線計画を踏まえた工場のレイアウトをご提案いたします。また、現在の工場の床塗装やパーテーションなどによるゾーニングの見直しにも対応をしています。
食品工場の改修や修繕についてもお気軽にご相談ください。
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