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ビルの耐震補強・耐震工事の種類と改修の流れ
投稿日 : 2024/11/13現在、国内では毎年のように大きな地震が発生し、首都圏への大規模地震発生への警戒も高まっています。特に、ビルを所有している場合、地震における被害は時に甚大となるため、懸念している方もいるのではないでしょうか。
地震は避けられるものではありませんが、事前に万全の対策を行うことで被害を抑えたり、被災リスクを軽減したりすることは可能です。そのためには、まずは建物の状況を把握し、必要であれば耐震補強を実施することが欠かせません。
本記事では、ビルの耐震補強・耐震工事について、種類や改修の流れ、費用を抑えるポイントについて解説しています。地震に的確な備え、準備を行いたいビルオーナー様はぜひご覧ください。
Contents
耐震補強の必要性と基本概念
まず、耐震補強がなぜ必要となるのかや、耐震補強の評価方法など基本的な考え方について見ていきましょう。
耐震補強が求められる理由
日本は地震大国であり、建物の安全性を確保するために耐震補強が重要視されています。特にビルや商業施設などの大型建物は、多くの人々が利用するため、災害時に大きな被害を引き起こす可能性があります。
耐震補強は人的被害の軽減だけでなく、事業継続の観点からも重要です。大規模な地震が発生した際に建物が倒壊すれば、事業の停止や大きな経済的損失を招く可能性があります。耐震補強を行うことで、こうしたリスクを減少させることができ、企業にとって長期的な安定経営を可能にします。
なお、耐震基準は時代とともに見直されており、1981年以前に建築された建物は旧耐震基準に従っていることが多く、地震に対する耐久性が低いとされています。
そのため、最新の耐震基準に適合していない建物は、現在の基準に適合しているか速やかに調査し、必要である場合には耐震補強を行うことが理想です。
工場・倉庫の地震対策については「工場・倉庫での地震対策で実施したい7つのポイント」でもご紹介しています。
耐震性能の評価と診断方法
耐震補強を行う前に、まず建物の耐震性能を正確に評価することが重要です。耐震診断は、建物がどの程度の地震に耐えられるかを調査し、その結果に基づいて補強方法を決定するプロセスです。
一般的には以下のようなステップで実施されます。
- 現地調査: 建物の設計図や過去の修繕履歴を確認し、実際の建物状態を調査します。建物の構造や劣化状況、使用されている材料などを評価します。
- 構造解析: 建物に加わる地震力をシミュレーションし、構造の強度や耐震性能を計算します。これにより、どの部分が地震に弱いか、補強が必要かどうかが明らかになります。
- 診断結果の評価: 診断結果に基づき、建物が現在の耐震基準を満たしているかどうかを判断します。この際、耐震補強が必要な箇所や、その優先順位も明確にされます。
診断の結果、補強が必要であった場合には耐震補強工事を実施する必要があります。診断結果に基づいて、最適な補強方法を選定し、建物の安全性を確保することが重要です。
工場・倉庫の耐震基準については「工場・倉庫の耐震基準とは?耐震診断や耐震性を向上させる方法」もご参考ください。
ビルの耐震補強工事の種類
ビルの耐震補強工事にはさまざまな方法があり、どの手法を取るべきか(もしくは組み合わせるべきか)は状況により異なります。具体的な方法や適したシーンについて解説します。
外部補強工法
外部補強工法は、建物の外側から行われる耐震補強の一つで、既存の建物に新たな耐震構造を追加する方法です。
鉄骨や鋼材を使用して、建物の外部にブレース(斜材)を取り付ける方法(ブレース追加工法)や建物の外周に鉄骨フレームを追加し、地震の力を外部で受け止める工法(外部フレーム工法)、外壁に耐震性能の高い壁材を追加する方法(耐震壁増設工法)などが挙げられます。
以下は、一般的な外部補強工法の例です。外部補強工法は、建物の内部空間に影響を与えないため、運用を続けながら工事が進められるのが大きな利点です。
内部補強工法
内部補強工法は、建物の内部空間に直接手を加えて行う耐震補強です。
例えば、建物の内部に鉄筋コンクリートや鋼材を使用した耐震壁を作ったり(耐震壁増設工法)、既存の柱や梁に補強材を追加し、構造全体の耐震性を強化したり(柱・梁補強工法)といった方法が挙げられます。もしくは、主要構造のフレームの強化(フレーム補強工法)も有効です。
内部補強工法は、建物の外観を変えずに耐震性を向上させる方法として有効ですが、外部補強に比べて内装工事が必要となるため、ビルの使用状況や工事の影響を考慮する必要があります。
基礎補強工法
建物の耐震性能を向上させるには、基礎部分の補強も重要です。基礎がしっかりしていなければ、建物全体の耐震性が低下するため、基礎補強は耐震工事の要となります。
具体的には既存の基礎杭の補強(杭補強工法)や既存の基礎の強化(基礎一体化工法)、基礎部分への免震装置の導入(免震工法)などが挙げられます。基礎補強工法は、建物の安定性を確保し、全体の耐震性能を向上させるための重要な手段です。
耐震補強工事の進め方と注意点
耐震補強工事を成功させるためには、計画から実行、そして工事後のメンテナンスまで、各段階での適切な管理が不可欠です。工事を進める上での基本的な流れと、特に注意すべきポイントについて解説します。
工事の計画とスケジュール管理
耐震補強工事は、大がかりな工事となることも多いため、事前の計画が重要です。まずは、建物の耐震診断を行い、その結果に基づいて必要な補強工事の内容を決定します。補強の範囲や工法を選定する際には、予算や工期を考慮しながら、最適な方法を検討しましょう。施工期間や資材の手配、人員配置などを詳細に検討することが重要です。。特に、工事の規模が大きくなるほど、計画段階でのスケジュール管理が重要です。
また、工事中は建物の利用に少なからず制限をおよぼします。建物の利用状況や、他の業務との調整も考慮しながら、適切なスケジュールを組む必要があるのです。工事が長引くことで、業務や住環境に悪影響を与えることがないよう、効率的な工期管理が求められます。
工事中の安全管理と影響の最小化
耐震補強工事は、建物の使用が継続される中で行われることが多く、工事中の安全対策が非常に重要です。足場の設置や重機の取り扱いに関するガイドラインの遵守、作業員の安全教育が欠かせません。加えて、作業時間帯を調整して、工事中の騒音や振動が周囲に与える影響を最小化する工夫も必要です。
また、ビルのテナントや居住者に与える影響を最小限に抑えるための工夫も必要です。まずはテナントや居住者に対して事前に工事計画や騒音、振動の発生が予想される期間を告知し、事前の理解を得ることが大切です。
作業時間帯を調整して、工事中の騒音や振動が周囲に与える影響を最小化したり、工事エリアを適切に分離し、安全な動線を確保したりすることで、建物の利用者が安心して生活・業務を続けられるよう配慮します。
工事後の点検とメンテナンス
耐震補強工事が完了した後も、建物の安全性を長期的に確保するためには、定期的な点検とメンテナンスが欠かせません。補強工事が適切に行われているか、また、建物全体の耐震性能が維持されているかを確認することが重要です。
まずは補強工事が完了した後、まずは施工内容が計画通りに行われたかを確認します。また、補強材や追加した構造物に異常がないか、外観や内部のチェックを行います。
補強工事後も建物の寿命を延ばすため、長期的なメンテナンス計画を立て、定期的な修繕や補修を行うことで、建物の安全性を維持します。特に、年数が経過するにつれて発生する小さな劣化やダメージは、定期的な補修で対処することが大切です。
耐震補強工事の費用相場と削減のポイント
耐震補強工事は、建物の安全性を確保するために欠かせない工事ですが、経営者にとっては大きな出費となります。適切な見積もりとコスト削減のポイントを押さえることで、負担を軽減することが可能です。また、補助金や助成金を活用することも重要です。
工事費用の相場と費用削減のポイント
ビルの耐震補強工事の費用相場は3万〜10万円/㎡程度と言われています。
ただし、耐震補強工事の費用は、建物の規模や状態、工法によって大きく異なるため注意が必要です。一般的に、工事費用の見積もりは以下のような要素に基づいて算出されます。
- 建物の規模: 建物が大きくなればなるほど、補強が必要な箇所や工事の範囲が増えるため、費用も高額になります。
- 補強方法: 外部補強や内部補強、基礎補強といった方法によって費用が異なります。工法によっては、材料費や施工の手間が変わるため、事前に工法の選定が重要です。
- 建物の現状: 老朽化が進んでいる建物は、補修が必要な箇所が多いため、費用が上がる傾向にあります。
費用削減のポイントとしては、複数の業者から見積もりを取り、価格だけでなく、工事の品質や対応力も考慮して選定することが大切です。
また、すべてを一度に工事するのではなく、優先順位をつけて段階的に補強を進めることで、資金計画に余裕を持たせることができます。特に重要な部分から順次工事を行うことで、初期費用を抑えつつ、耐震性を向上させることが可能です。
補助金・助成金の活用
耐震補強工事は、多くの自治体や政府機関で補助金や助成金の対象となっている場合があります。これらを活用することで、工事費用の一部を軽減することが可能です。
まずは自治体や国のホームページ、建築事務所などを通じて最新の情報を確認しましょう。申請の期間や条件、制度の条件を満たす工事内容の確認など、有効に申請できる内容であるかを確認した上で、申請の準備を行います。
まとめ
ビルの耐震補強工事について、基本的な考え方から工事の種類、費用相場から価格を抑えるポイントまで解説しました。
居住者、利用者の人命を守るため、そして事業を継続して行うためには建物の安全管理は必須。特に地震大国である日本では地震に対する備えは確実に行いましょう。
今回の記事も参考に、所有するビルの状態を適宜確認し、必要であれば最適な耐震補強工事を計画してみてください。
三陽建設ではビルやオフィスの施工の実績が豊富にあり、これまでのノウハウを活かして細部まで丁寧な施工が可能です。
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