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PIC/SとGMPの関連性とは?加盟によるメリットと対応の重要性
更新日 : 2024/03/05「PIC/Sとは、医薬品の実質的な世界的基準です。
PIC/Sが定めるGMPガイドラインによって、医薬品・医療機器の安全性・有効性などの基準を統一を目指しています。
しかしPIC/Sに法的拘束力がないことから、対応に困る担当者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、PIC/Sの概要、加盟のメリット、国内規制との差異を埋めるための改正内容などについてお伝えします。日本で医薬品製造に関わる担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
Contents
PIC/SとGMPとは?
PIC/Sとは、医薬品製造業者に対する世界各国の査察基準を整合させるためにGMPガイドラインの策定などを行う国際的な組織で、Pharmaceutical Inspection Co-operation Scheme(医薬品査察協定及び医薬品査察共同スキーム)の略称です。
PIC/SとGMPの関連性
そもそも医薬品や医療機器の国際的な基準としては、医薬品分野のGMP(Good Manufacturing Practice:医薬品の製造管理及び品質管理の基準)があります。しかし、GMPは国によって内容や適用範囲に違いがあり、そのままでは国境を超えたスムーズな流通ができません。
そこで、各国のGMPに共通の分野を設け、主に次のような目的の実現を目指して1995年に設立されたのがPIC/Sです。
- GMP査察分野における相互信頼の維持と査察品質向上に向け、加盟当局の協力関係の強化を推進すること
- 情報や経験を共有する枠組みを提供すること
- 査察官や関連技術専門家を対象とした相互トレーニングを開催すること
- 製造所の査察や公的試験機関で実施する試験に関する技術的な基準と手順の改善、調和を図るため共同の取り組みを継続すること
- GMP基準の作成、調和・維持を目的とした共同の取り組みを継続すること
- グローバルハーモナイゼーションの実現に向け、共通の基準と手順を採用するための国家協定を締結した他の規制当局との協力関係を拡大すること
PIC/Sのガイドラインについて
PIC/Sは2021年には、54か国が加盟しており、日本も2014年7月1日から加盟しています。PIC/Sは国際的な組織で、GMPガイドラインの策定を行っていますが、このガイドラインには法的な拘束力があるわけではありません。
しかしながら、加盟国が50を超え、EU加盟国に加えアメリカも加盟したことから実質的な国際基準となっています。特にEU加盟国内では、PIC/Sの加盟が医薬品製造および輸出入の要件になるほど重要です。そのため、日本でもPIC/Sに準拠した医薬品の製造や品質管理が必須であると言ってよいでしょう。
GMPについて詳しくは、「GMPとは?―GMPの意味やGMP省令の改正点などについても解説」をご覧ください。
PIC/Sに加盟することで得られるメリット
前述のように、現在、PIC/Sのガイドラインに法的な拘束力があるわけではありません。ただ、加盟することでさまざまなメリットが得られます。具体的には次のとおりです。
査察活動の効率化
PIC/Sに加盟する国同士では、「相互認証」の仕組みがあります。この仕組みを利用することで、公的機関の査察の免除や、本国とPIC/S、それぞれの基準の違いによるダブルスタンダードの解消などが実現でき、製造業者や規制当局の手間・経費負担軽減、査察資源の有効活用が可能になります。
品質管理水準の向上
PIC/S加盟国間にある「共通ガイドライン」により、品質管理水準の向上が期待できます。共通ガイドラインとは、各国で異なるGMPガイドラインを可能な限り調和させることで、品質管理水準を高めることができる仕組みです。これにより、製造業者や規制当局の間で最新かつ高度な知見や技術が共有され、品質管理水準が向上します。その結果、使用者の保護・安心・安全性の確保などが可能になります。
日本国内のPIC/Sのガイドラインの改正内容(2012年)
前述したように各国のGMPとPIC/Sが定めるGMPガイドラインには差異があります。日本も同様で、PIC/Sへの加盟が認められたのは2014年ですが、申請したのは2012年で、そこからPIC/Sのガイドラインへの対応を開始しました。
具体的には、2013年8月30日に厚生労働省から「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令の取扱い」を発出し、次の6項目について以下のように改定しています。
- 品質リスクマネジメントの活用
- 製品品質の照査
- 参考品等の保管
- 安定性モニタリング
- 原料等の供給者管理
- バリデーション基準の改正
次の項目からは、「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令の取扱い」の改正内容を詳しく解説します。
品質リスクマネジメントの活用
製品のライフサイクルを通したリスクを分析、評価、管理する体系的な組織方針、手順および規範を示した品質リスクマネジメント実現に向け、複数の専門分野で構成されるチームでリスク軽減・回避の道を探る。
製品品質の照査
製品品質の照査は、定期的または随時実施され、製品が適切に管理されているか確認するためのもので、その対象として示された12項目(原料及び資材の受入時における試験検査の結果の照査、重要な工程管理及び最終製品の品質管理の結果の照査等)を実行する。
参考品等の保管
市場に出荷後の不具合や将来の品質評価に備えるため、参考品(出発原料・資材または最終製品バッチのサンプル)と保存品(市場にある製品との同一性を確認するためのサンプル)を保管する。
安定性モニタリング
製品が有効期限内に規格内であるかを確認するため、温度、湿度等の影響を受けやすい測定項目を選定し、少なくとも12か月間隔でモニタリングを実施する。
原料等の供給者管理
原料および資材は承認された供給者から購入し、規格に適合するものを受け入れる。また、重要な原料および資材は、供給者と製造および品質に関する取り決めを行い、管理ができていることを確認する。
バリデーション基準の改正
バリテーションとは、製造所の構造設備並びに手順、工程その他の製造管理及び品質管理の方法が期待される結果を与えることを検証し、これを文書とするもの。厚生労働省では、製品ライフサイクル、バリデーション活動、継続的工程確認等の採用などについて改正。
GMP省令(2021年8月)の改正内容
さらに、PIC/Sが定めるGMPガイドラインへの準拠を目的のひとつとして、2021年8月1日にGMP省令の抜本的な改正が行われました。主に次の点において変更があり、日本のGMP省令の国際的な標準化への取り組みを進めています。
医薬品品質システムの整備
医薬品の製造業者は、医薬品の品質を管理するための仕組みを整備し、経営陣の関与のもとに実効性のある「医薬品品質システム」を構築・整備する。
品質リスクマネジメント
医薬品の品質に対して好ましくない影響が及ぶ事象に対するリスク管理として、製造業者は製造・品質の管理による「品質リスクマネジメント」を構築する。
品質保証(QA)担当組織の設置
「品質部門」の下に、新たに「品質保証に係る業務を担当する組織」と「試験検査に係る業務を担当する組織」を設置し、それぞれの組織に、十分な人員を配置する。
基準書の廃止・手順書の追加
改正GMP省令では、「基準書」が「手順書」に変更となる(衛生管理基準書、製造管理基準書、品質管理基準書などが名称変更される)。これらに加えて、17種類の手順書を別途作成する。
製造業者・製造販売業者の連携強化
改正GMP省令では、製造業者と製造販売業者の連携が強化されているため、製造所での変更が品質や承認事項に影響を及ぼす可能性がある場合、製造販売業者に連絡する。
交叉汚染の防止
交叉汚染とは、2つ以上の製品が同じ製造所で混入して汚染が生じることで、これを防止するために空調設備や作業室などへの措置を講じる。
是正措置・予防措置(CAPA)の徹底
不適合の再発を防止するために原因を解消する「是正措置」、不適合の発生を未然に防ぐための「予防措置」を講じる。
データインテグリティの徹底
データインテグリティとは、データがそのライフサイクル全体において一貫性を保ち、完全・正確である状態のことで、これを確保するために、製造業者は手順書や記録の管理業務を行う者をあらかじめ指定し、担当者は手順書や記録を継続的に管理する。
PIC/SとGMPへの対応は重要性が高い
PIC/Sが策定するGMPガイドラインは、法的な拘束力は持たないものの、2022年の時点でEU加盟国やアメリカを始め54か国がPIC/Sに加盟していることから、実質的な国際基準と言えます。
このガイドラインに対応していくことで、査察活動の効率化や品質管理水準の向上といったメリットが得られます。医薬品や医療機器を製造している企業であれば、その内容はしっかり把握しておく必要があるでしょう。
日本のGMP省令は、PIC/Sが策定するGMPガイドラインに100%準拠しているわけではなく、内容や適用範囲に差異がありますが、2021年の法改正により、PIC/Sとの整合性を図ることを目指しています。
そのため、医薬品や医療機器を製造する工場にも、PIC/SのGMPガイドラインに合わせた設計・施工が求められるようになるでしょう。三陽建設はGMP対応工場の施工実績が豊富なため、PIC/Sに合わせた施工の際にもぜひご相談ください。
工場の新規建設をご検討の方は「三陽建設の新規建築」をご覧ください。